NOブースターのすべて①:NOが体内で果たす役割とその合成経路

久しぶりの更新になりました。
今回はいわゆるNOブースターについてのシリーズを始めます!

NO、一酸化窒素は我々の体内で様々な重要な役割を果たします。
NOが生理的に関わると言われているものには、血管の拡張、エネルギー生産、糖代謝、細胞内のカルシウム濃度調整、筋収縮などがあります。
このように多くの役割を身体の中で果たすNOはスポーツ業界でも注目されていて、体内のNOレベルを食事またはサプリで増やすことでパフォーマンスをあげるといった試みがなされています。
それに合わせて、いわゆるNOブースターと呼ばれるNO3、アルギニン、そしてシトルリンなどのサプリが人気を集めています。
プレワークアウトなどによく含まれていて、「最強のパンプを!」といった具合で宣伝されています。

そこで“NOブースターのすべて”というシリーズとして、体内のNO(一酸化窒素)の役割、その合成経路、そしていわゆるNOブースターと呼ばれるサプリにどのような効果が期待できるのか、などについていくつかの記事に分けて書いていこうと思います。

第1回の今回は“NOが体内で果たす役割とその合成経路”というテーマです。

NOの体内で果たす主な役割-

一酸化窒素、NOは体内で様々な役割をはたすと言われています。
それらのうち大事なものをいくつか紹介します。

1、血管の拡張

我々の内臓は平滑筋と呼ばれる筋肉の活動により働いています(一方で我々が通常いう“筋肉”は骨格筋と呼ばれます)。また、血管の収縮も平滑筋により調節されています。つまり、血流は平滑筋の収縮具合によって決まるということです。そしてこの血管の収縮が血管内皮から分泌されるNOによって調節されているのです。

図のように、血管内皮細胞でNO3またはアルギニン・シトルリンからNOが作られます。放出されたNOが平滑筋へと運ばれ、cGMPという物質が増えます。cGMPは平滑筋内のカルシウム濃度を下げるので、結果的に筋肉がリラックスして血管が広がり、血流量が増えるのです(1)。

2、ミトコンドリアの生産・ミトコンドリアでの呼吸

ミトコンドリアは細胞内で我々のエネルギー源、ATPを生産する器官です。
上に述べたように、NOが増えるとcGMPが生産されます。このcGMPは細胞内でPGC-1alphaと呼ばれるものを活性化します。PGC-1alphaが活性化すると、細胞はミトコンドリアの数を増やします。
ミトコンドリアの数が増えることにより、 ATPの生産量が上がるのです。


このようなミトコンドリアを増やす効果以外に、もう1つNOのミトコンドリアに対する別の効果が提唱されています。ミトコンドリアは酸素を使って呼吸をすることによりATPを作ります。
ミトコンドリアを増やす効果以外に、NOはこのミトコンドリアによるATP生産の効率そのものもあげるという説があります(2)。しかし一方で、NOは酸素と拮抗することでATP生産を阻害するという説もあり、本当にそのような効果があるかどうかは不透明です(3)。

3、免疫力の向上

高濃度のNOは細胞や微生物にとっては毒です。
我々の体内の免疫細胞はいらない細胞や微生物を感知するとNOを放出してそれらを殺すことが知られています(4-6)。NOを増やすことで免疫力があげられるかもしれないと言われるのはこのためです。

4、筋肉のグルコース吸収の向上

NOが増えると筋肉のグルコースの取り込みが上がるという結果がいくつか得られています。
これは骨格筋細胞のグルコースを取り込む効率が直接上がるわけではなく、NOにより血管が拡張することでより多くのグルコースが骨格筋細胞へ送られるからという説が有力です(7)。

このように、NOは体内で様々な重要な役割を果たしています。

ですが、普段の食生活に加えてNO3・アルギニン・シトルリンをサプリなどで経口摂取することで本当にこれらのNOの生理機能をブーストすることができるのでしょうか?

それについては次回話すとして、まずはNOの合成経路について話します。

 

NOの合成経路-             

NOが体内で合成される経路は、NO3から作られる経路とアルギニン・シトルリンから作られる経路の2つがあります。
まずはNO3から作られる経路を解説しましょう。

まずNO3はサプリで摂取する以外に、ビートルート・ケール・ほうれん草などの野菜に多く含まれています。量としては上に述べた野菜100 g あたりにざっくり250 mgのNO3が含まれていると言われています(8)。
そして摂取したNO3のうち約25%が唾液腺から吸収されて、濃縮されると言われています(9)。
吸収されたNO3の多くは肝臓で吸収され、尿として体外に排出されます(10)。
しかしいくらかのNO3は舌の上に住んでいる微生物によってNO2にされ胃に入って行きます。
そして胃の酸性環境がNO2をNOへと変換します(11, 12)。

また一部のNO2は循環器系に入り、血管を通して筋肉を含む様々な組織に運ばれます。
そして筋肉が酸性環境、もしくは低酸素環境になるとNO2からNOに変換され、筋肉で様々な役割を果たすことになります(13)。

しかし生成されたNOはとても不安定な物質で、通常は1秒足らずで再びNO2に戻ってしまいます。
このように、経口摂取されたNO3は一部が筋肉組織に届き、そこで環境に応じてNOに変換されるのです。

では、アルギニン・シトルリンからはどのようにNOが作られるのでしょうか。

アルギニン・シトルリンからは尿素回路(Urea cycle)とシトルリン-NO回路(Nitric oxide cycle)の組み合わせによってNOが作られます。

アルギニンは通常のタンパク質に含まれるアミノ酸なので豆・肉類に多く含まれ、またゴマにも多く含まれています。シトルリンはメロン・ゴーヤ・きゅうり・カボチャなどに多く含まれています。

体内のアンモニアは毒素なので排出されなければなりません。そのアンモニアを排出するのが尿素回路です。尿素回路ではシトルリンをアルギニンに、またアルギニンをシトルリンへ戻すことで毒素であるアンモニアを尿素に変えて排出します。

また、シトルリンから生産されたアルギニンはシトルリン-NO回路に入ってNitric oxide synthase (NOS)と呼ばれる酵素によってシトルリンに戻されることもできます。この過程でNOが発生するのです。
つまり、アルギニンとシトルリンは上記の代謝サイクルをぐるぐる回りながらNOを生成するのです。

アルギニンもシトルリンも小腸から吸収されますが、実はシトルリンの方が吸収されやすく、結果としてシトルリンを摂取した方がアルギニンを摂るよりも血中のアルギニン濃度が上がることが示唆されています。
摂取されたシトルリンは約83%が吸収され、アルギニンに変換されます。
血中アルギニンのうち5-15%はシトルリンから作られていると言われています(14)。

以上のことからNOの生成目的であればアルギニンよりもシトルリンを摂取する方が効率が良いのではないかと言われています。

さて、このようにNOは我々が食べる野菜やサプリに含まれるNO3、もしくはアルギニン・シトルリンから体内で生成され、様々な役割を果たします。

こういった理由からNO3・アルギニン・シトルリンを含むサプリメントは人気を高めています。
ではNO系サプリはどんな効果があると一般的には言われているのでしょうか?
NO系サプリの広告ページに行くとだいたい目につくのは

・NOは血管拡張作用があるため血流量が増加し、運動のパフォーマンスが上がる。
・運動によって生じるアンモニアなどの副産物を効率よく除去できる。
・成長ホルモンの増加
・疲労回復
・免疫力増加

といった効果です。

さて、これは本当でしょうか?NO3・アルギニン・シトルリンを摂取することによって実際のところどのような効果が得られるのでしょうか?
先ほど述べたように、NOは体内で大事な役割を果たしていますが、普段の食生活に加えてNO3・アルギニン・シトルリンをサプリなどで経口摂取することでNOの生理機能をブーストできるかどうかは別問題です。

それを次回の記事から1つ1つ検証していきたいと思います。

 

(参考文献)

  1. Zhao, Y., et al., 2015. Vascular nitric oxide: Beyond eNOS. Journal of Pharmacological Sciences 129(2):83-94.
  2. Bailey, S.J., et al., 2010. Dietary nitrate supplementation enhances muscle contractile efficiency during knee-extensor exercise in humans. J. Appl. Physiol. 109:135– 48 9.
  3. Brown, G., 2007. Nitric oxide and mitochondria. Frontiers in Bioscience 12(2):1024-1033.
  4. Green, S.J., et al., 1990. Leishmania major amastigotes initiate the L-arginine-dependent killing mechanism in IFN-gamma-stimulated macrophages by induction of tumor necrosis factor-alpha”. Journal of Immunology 145(12):4290–7.
  5. Seguin, M.C., et al., 1994. Induction of nitric oxide synthase protects against malaria in mice exposed to irradiated Plasmodium berghei infected mosquitoes: Involvement of interferon gamma and CD8+ T cell. Journal of Experimental Medicine180(1):353–8.
  6. Mellouk, S., et al., 1991. IFN-gamma inhibits development of Plasmodium berghei exoerythrocytic stages in hepatocytes by an L-arginine-dependent effector mechanism. Journal of Immunology 146(11):3971–6.
  7. Stamler, J., and Meissner, G., 2001. Physiology of nitric oxide in skeletal muscle. Physiological reviews 81(1):209-237.
  8. Hord, N.G., et al., 2009. Food sources of nitrates and nitrites: the physiologic context for potential health benefits. Am. J. Clin. Nutr. 90:1–10
  9. Qin, L., et al., 2012. Sialin (SLC17A5) functions as a nitrate transporter in the plasma membrane. PNAS 109:13434–39
  10. Wagner, D.A., et al., 1983. Metabolic fate of an oral 
dose of 15N-labeled nitrate in humans: effect of diet supplementation with ascorbic acid. Cancer Res. 
43:1921–25
  11. Duncan, C., et al., 1995. Chemical generation of nitric oxide 
in the mouth from the enterosalivary circulation of dietary nitrate. Nat. Med. 1:546–51
  12. Benjamin, N., et al. 1994. Stomach NO synthesis. Nature 
368:502
  13. Richardson, R.S., et al., 1995. Myoglobin O2 desaturation during exercise. Evidence of limited O2 transport. J. Clin. Investig. 96:1916
  14. Curis, E., et al., 2007. L. Citrulline and the gut. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 10(5):620-626.

 

 

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