足の “つる” メカニズム —水分、電解質不足が原因ではない—

こんにちは!サイエンス担当の兄者です!
皆さんは寝ているときに急に足がビクッとなってつったりして、起きたことありますか?
いわゆる”こむら返り”ってやつですね。
僕は人生で数回しかなったことないのですが、辛いですよね。
その他にもスポーツの練習や試合中に足がつって助けて〜ってなること、ありますよね。

この足のつる原因ってなんでしょう?

足つり、原因、などでグーグル検索すると、一番出てくるのが

水分不足、電解質不足

だいたいどこのサイトに行っても

「水分補給をしっかりしましょう!」
「スポーツドリンクを薄めて飲みましょう!」

などの予防方法が出てきます。

実際に、水分や電解質の不足が原因ではないかという論文もいくつも見つかります。

Bergeron MF. Heat cramps: fluid and electrolyte challenges during tennis in the heat. J. Sci. Med. Sport. 2003; 6:19Y27.

Bergeron M. Muscle cramps during exercise V is it fatigue or electrolyte deficit? Curr. Sports Med. Rep. 2008; 7:S50Y5.

Horswill CA, Stofan JR, Lacambra M, et al. Sodium balance during U. S. football training in the heat: cramp-prone vs. reference players. Int. J. Sports Med. 2009; 30:789Y94.

Stofan J, Zachwieja JJ, Horswill C, et al. Sweat and sodium losses in NCAA football players: a precursor to heat cramps? Int. J. Sport Nutr. Exerc. Metab. 2005; 15:641Y52.

ですが、この水分・電解質不足で説明がつかないことがいくつもあり、この理論を問題視する声が常に上がっていました。
というのも

1、レース後にランナーを足がつったグループ、足がつらなかったグループに分けて電解質の変化、水分(体重)の減少を調べたところ、差が見られなかった。
Schewellnus MP, Drew N, Collins M. Br J Sports Med 2011;45:650-656

2、被験者を水分を十分に補給したグループ、脱水状態のグループに分けて”つり”やすさを調べたところ、差が見られなかった。
Braulick KW, Miller KC, Albrecht JM, et al. Br J Sports Med 2013;47:710-714

といったデータが提示されてきたのもあります。
また、この理論ではなぜストレッチが足つりを和らげるのか、説明がつきませんでした。

こういった長年の実験結果、水分・電解質不足が足つりの原因だとする理論はイマイチ信用できないのではないかと言われてきました。
Sawka MN, Burke LM, Eichner ER, Maughan RJ, Montain SJ, Stachenfeld NS. American College of Sports Medicine Position Stand: exercise and fluid replacement. Med. Sci. Sports Exerc. 2007; 39:377Y90.

そこで最近アメリカで話題になっているのが

足つりの原因は筋肉にはなく、筋肉をコントロールする運動神経にあるのではないか

という理論です。

運動神経とはなんでしょう?
この場合、我々がよくいう「あいつは運動神経がいいなぁ」という運動神経とは違います。
運動神経とは脳みそから背骨を通り、全身の筋肉に張り巡らされている神経のことです。

 

 

我々が手足を動かしたりする際、脳みそから電気信号が送られ、この電気信号が運動神経を伝わって筋肉を刺激することにより筋収縮が起こります。

上の写真は兄者撮影の運動神経(単離されたマウスの運動神経)。
大きさは0.02 mmぐらい。
ボタンみたいなのが神経の本体で、そこから足みたいなのが伸びているのがわかると思います。
この足をつたわって電気信号が筋肉へと送られます。
この運動神経を伝わる電気信号は、脳からの指令に基づいて筋肉を繊細にコントロールしています。
この運動神経が過剰に活動し、筋肉に異常な電気信号を送り続けることにより “つり” が起こるというのが最近注目されている理論です。

実際に、この運動神経の過剰活動はラットや猫などの生物で起こることが確認されてきました(ラットや猫を使ったのは単純に倫理上人間を使って実験できないからです)。
K.C. Murray, M.J. Stephens, E.M. Ballou, C.J. Heckman, D.J. Bennett J. Neurophysiol. 105: 731-748, 2010.
J Hounsgaard et al., J. Physiol. 405: 345, 1988.

んじゃ運動神経と筋肉を切り離して、無理やり足つりを外部から電気刺激を与えて起こしたらどうなるの?
と考えた研究者がいて、それを実際にやってみたところ、運動神経と筋肉が切り離された場合は足つりが起こらないことがわかりました。
Mechanisms of cramp contractions: peripheral or central generation? M.A. Minetto, A. Holobar, A. Botter, R. Ravenni, D. Farina. J Physiol 589:5759–5773, 2011

まだまだこの仮説をサポートする実験が必要ですが、筋肉をコントロールする運動神経が異常活動をすることにより筋肉も異常に収縮してしまう、という理論がだんだんと広がってきました。
それではこの

運動神経の異常活動 → 筋肉の異常収縮 → つった!

をどうやったら防げるのでしょう?

ここで注目されたのが、アメリカの一部で伝統的に足つり予防として使われてきた「ピクルスジュース」です。
アメフト選手などが足つりを予防・治療するのにピクルスジュースを使うことがありました。
実際にピクルスジュースを飲むことが足つりの治療に役立つという論文も出ました。
K.C. Miller, G.W. Mack, K.L. Knight, J. Ty Hopkins, D.O. Draper, P.J. Fields, and I. Hunter, Med Sci Sports Exerc. 42:953-961, 2010.

 

 

ではどうしてピクルスジュースが運動神経の異常活動を抑えることができるのでしょうか?
この疑問が長年解かれなかったのですが、近年有力な仮説が出てきました。
それが

1、ピクルスジュースの成分が口・食道・胃のTRPV1/TRPA1と呼ばれる電気を発生する装置を刺激する。

2、1で発生した刺激が運動神経・脳を介して異常活動をしている運動神経の活動を抑制する。

という仮説です。
ではこの口・食道・胃のTRPV1/TRPA1と呼ばれる電気を発生する装置をより効率よく刺激できる方法はないだろうか?
と考え開発されたのがHOTSHOTと呼ばれるドリンク(HOTSHOT)です。
このHOTSHOTは

1、運動前に飲むと足つりが予防できる。

2、足つりの兆候が見られた際に服用すると予防ができる。

3、足つりが発生した際に飲むと回復が早い。

ということが実験で示されてきました。

Muscle Nerve. 2017 Sep;56(3):379-385. doi: 10.1002/mus.25611. Epub 2017 May 9. Ingestion of transient receptor potential channel agonists attenuates exercise-induced muscle cramps. Craighead DH, Shank SW, Gottschall JS, Passe DH, Murray B, Alexander LM, Kenney WL.

Short GF, BW Hegarty, R MacKinnon, B Bean, C Westphal, JM Cermak. Orally-administered TRPV1 and TRPA1 Activators inhibit electrically-induced muscle cramps in normal healthy volunteers (abstract). American Academy of Neurology 2015 Annual Meeting http://www.neurology.org/content/84/14_Supplement/S17.003, 2015.

Short GF, BW Hegarty, CH Westphal, JM Cermak. TRPV1 and TRPA1 activators reduce human muscle cramping (abstract). Society for Neuroscience, 2015.

Sutherland, RC, EO Solberg, A Tomblom, B Hegarty, L Rosen, T Wessel, C Westphal, J Cermak. Synthetic TRP activators demonstrate efficacy in preventing human muscle cramping: potential new drug treatment for muscle cramps and spasticity (abstract). American Academy of Neurology 2015.

Cermak JM, LB Rosen, BW Hegarty, BP Bean, R MacKinnon, CH Westphal, T Wessel. Orally-administered TRPV1 and TRPA1 Activators Reduce Night Leg Cramps in a Randomized, Blinded, Placebo-Controlled, Crossover Human Trial (abstract). American Academy of Neurology 2016.

なんやついに東原兄弟ステマ始めたか!!!!
となったと思いますが、残念ながらこのドリンク日本では未発売なのでステマではありません!
なんで珍しく商品を紹介したかというと、兄者のボスがこのドリンクの開発者だからです。
僕も最初はホンマに効くんか?と思っていたのですが、
多様な科学的なバックグラウンドと、使用者がめっちゃ増えていることでマジだなと思うようになってきました。
トライアスロン選手や、女子マラソンのオリンピックメダリスト、アメフト選手などが使用しています。
開発者の彼本人から聞いた話によると、4人のうち3人はマジで効くが、4人のうち1人ぐらいの割合で効かない人がいるようです。ですが、効く人にとってはなくてはならないドリンクになるみたいです。
試合、レース中の足つりは命取りですからね。
また、僕は2017年11月のニューヨークマラソンを走ったのですが、25km時点で足がつりそうになりHOTSHOTを服用して実際につりを抑えられた人です。
ですがピクルスジュースなどをベースにしているのでまずいのが欠点です…

んじゃ日本にいる我々はどうすればいいの?となりますね。
このピクルスジュース、HOTSHOTと同様な刺激を与えられる成分としてはカプサイシン(香辛料)、マスタード、わさび、にんにくなどがあります。
なので、こむらがえりをしがちな人は寝る前にマスタードを少し食べる。
練習前や試合前にピクルスジュースや香辛料の入ったドリンクなどを飲む(美味しくはないと思います)ことが “足つり” の予防策になると思います。

また、練習や試合の前に漢方(芍薬甘草湯)を飲むようにと言われた経験があるかたもいるかと思います。
実は芍薬・甘草にはTPRV1を刺激する成分が入っていることがわかっています。
http://www.inm.u-toyama.ac.jp/jp/collabo/h22_download/report/22-9.pdf

芍薬甘草湯の服用ももしかしたらいいかもしれません。

この運動神経の過剰活動仮説もまだ新しく、検証されるべき課題がたくさんあります。
例えばピクルスジュースの成分が口・食道・胃のTRPV1/TRPA1を刺激したあと、どのようなメカニズム・経路で運動神経の過剰活動を抑えるのかがまだ詳細にはわかっていません。
また、そもそも運動神経の過剰活動はどうして起こるの?結局何が原因なの?という根本的な疑問も残っています。

「疲労が運動神経の過剰活動を起こす」

といえば簡単ですが、その疲労とは一体なんなのか?
そういったところはこれから詳細に研究されることでしょう。

さてまとめると

1、”つり”の原因は水・電解質不足だと言われてきたが、最近その説を否定する声が多く上がっている。

2、身体の筋肉をコントロールする運動神経の過剰活動の結果、”つり”が起こるという理論が最近メジャーになってきている。

3、TRPV1/TPRA1と呼ばれるものを口・食道・胃から刺激すると運動神経の過剰活動、つまり”つり”を予防・治療できる。

4、ピクルスジュース、マスタード、カプサイシン、にんにく、わさびなどがTRPV1/TRPA1を刺激できる。

5、運動神経の過剰活動理論は今後も検証がされるべき注目理論

今回の記事では新しい足つりのメカニズムをみなさんにご紹介しました!

2 件のコメント

  • 医師は筋痙攣(いわゆる攣り)には芍薬甘草湯をよく処方します。
    私自身もスポーツで脚を攣りそうになったときに服用したことがありますが、とてもよく効いたと記憶しています。

    少し調べてみたところ、漢方に含まれる成分はTRPV1/TPRA1を刺激することがわかっているようで、この記事とあわせて納得がいきました。

    • コメントありがとうございます。
      僕自身も大学の部活をやっていた頃、試合前に芍薬甘草湯を服用していました。

      漢方は長い年月をかけて人々の経験をもとに作られたものなので、その中にTRPV1/TRPA1を刺激する成分が入っているのはこの理論を裏付けることになりますね!

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