プロテインシリーズ②:ホエイとカゼイン

今日は前回の記事に引き続きプロテインの解説を科学者の立場に立ってしてみようと思います。
前回のプロテインとは何か?についての記事を読んでいない方はぜひそちらを先に読んでみてください!

プロテインシリーズ①:プロテインってなに?

今日はプロテインの種類の中でも多くの皆さんが飲んでいるであろうホエイタンパク質とカゼインタンパク質について解説していこうと思います。
どちらも牛乳から作られるタンパク質ですね。
まずはこの二種類のタンパク質の特徴をざっとまとめてみます。

1、ホエイタンパク質

ホエイタンパク質は牛乳のタンパク質の20%をしめ、前回の記事で出てきたβラクトグロブリンが主成分です。このタンパク質は水によく溶け、よって胃腸内で分解・吸収されやすいです。
結果的に、飲んでから血中のアミノ酸濃度が上昇するまでの時間が早いのでトレーニング直後などによく飲まれます。
また、味付けが簡単で非常に美味しく飲むことができます。

2、カゼイン

カゼインは牛乳のタンパク質の80%をしめます。もちろんカゼインもβラクトグロブリンと同様にアミノ酸がつながってできたタンパク質なのですが、βラクトグロブリンとの決定的な違いはその水溶性にあります。
カゼインはたくさんのカゼイン同士がくっついて毛玉のような凝集構造をとることが知られています。この凝集構造は水に溶けないのでなかなかカゼインを分解する酵素が胃腸の中でなかなか働くことができません。よってゆっくりとカゼインは胃腸で分解されてゆくのです。
就寝前など、プロテインを摂取してからゆっくりとアミノ酸を吸収したい場合はカゼインタンパクを摂る人が多いです。しかし、水に溶けにくいのとあまり美味しくないのが欠点です。

以上まとめると、2種類のプロテイン何が違うかというと

・水に溶けやすいホエイタンパク質は早く吸収される。

・水に溶けにくいカゼインタンパク質はゆっくり吸収される。

さて、ここまでは誰でも書けるありきたりなことを書いたので、科学者の僕にしかできないホエイとカゼインの比較をしてみようと思います!
今回は1997年にPNASという科学雑誌で発表されたある実験に基づいて解説していきます!

http://www.pnas.org/content/94/26/14930

(以降この記事で出てくるグラフは論文のデータをもとに作成しました)

なぜこの論文をもとにするかというと

1、ホエイとカゼインを飲んだあとの血中アミノ酸濃度の変化を時間を追って測定している。

2、被験者の数が多く、さらに被験者の栄養状態などがよくコントロールされている。

3、この20年で1200回以上引用されている。

といった点でこれを選びました。いい記事なので英語を読める方はぜひ読んでみてください。

この論文で彼らは
ホエイとカゼインをそれぞれ別の被験者に飲ませ、その後血中のアミノ酸濃度がどう変化したかを7時間に渡って記録しました。
一般的に血中のアミノ酸濃度が高いと筋肉合成が効率的に行われると言われています。
実際にプロテインを飲んだあと、どのように血中にアミノ酸が取り込まれるか気になりますよね。
具体的にどうしたかというと、まず12人の健康な男性(全員同じぐらいの体重かつ年齢も24歳前後)を選び、実験前の3日間同じ量のタンパクを摂取してもらい、かつ同じ程度の運動もしてもらいました。
そして前日も同じ時間に同じような夕食を摂り、かつ同じ睡眠時間(約10時間)を摂り、朝ごはんを食べずに朝から実験スタートです!
被験者を6人と6人のグループにわけ、一方のグループには30 gのホエイタンパク質、もう一方には43 gのカゼインタンパク質を飲ませました。
そして血中のアミノ酸濃度を時間経過で測りました。
その結果とポイントを一つ一つ見ていこうと思います!

1、ホエイは血中のアミノ酸濃度をより早く上げるが、下がりも早い。一方カゼインはアミノ酸濃度の上がり方は小さいが、より長い時間アミノ酸を血中に供給できる。

上の図がホエイを摂ったグループとカゼインを摂ったグループの血中のロイシン(アミノ酸の一つ)濃度を時間を追って測ったグラフです。
ご覧の通りホエイは飲んでから30分以内に血中アミノ酸濃度がぐんと上がり、2時間ほどは高い値をキープしていますが、その後はだんだんと下がっていきます。
一方カゼインは摂取後、同じように30分以内に血中アミノ酸濃度が上がりますが、ホエイほどは上がりません。
その代わり摂取後7時間に渡って血中のアミノ酸濃度を高いままに保ちます。
これは、ホエイは短時間で大量のアミノ酸を血中に供給し、一方カゼインは徐々に吸収されていくので長時間アミノ酸を血中に供給できるということになりますね。
しかしどちらも2時間半から3時間は血中アミノ酸濃度を高く保っています。
増量中の筋トレ戦士であれば3時間に一度は食事をすると思うので、ホエイの効果が短いと言っても、感覚的には十分に長いのかもしれません。

2、タンパク質の破壊を抑える効果はカゼインの方がホエイよりある。

上の図はプロテインを摂取後、タンパク質がどれだけ分解されたかを表すグラフです。
タンパク質が分解されているということは、筋肉が分解されている可能性があるということです。
単位は難しいので無視して構いません。縦軸の値が低いほど、タンパク質の分解が少ないということです。
ご覧の通り、ホエイは7時間にわたり一定の値を保っていますが、カゼインは摂取後80分あたりからタンパク質の分解を少し抑え始めます(カゼインのグラフが80分あたりから下がり始めるのがわかると思います)。
ホエイではタンパク質分解を抑える効果が見られないが、カゼインでは摂取後タンパク質分解が抑えられるということです。

3、タンパク合成をホエイはカゼインよりも促進する。

最後に、上の図はプロテインを摂取後、どれだけ身体のタンパク質合成が促進されたかを示すグラフです。
つまり、”すごく簡単に”いえばどれだけ筋肉の合成が促進されたかを示すグラフです。
ホエイでは摂取後40分から160分にかけてタンパク質合成が促進されていますが、カゼインでは比較的低い値をずっと保ち続けています。
ホエイは摂取後2時間ほどはタンパク質合成を刺激すると言えます。

さて、こうやって実際の実験結果を見ながらホエイとカゼインの比較をすると面白いですね!!!
まとめとしては

1、ホエイは摂取後2-3時間にわたりアミノ酸を血中に高い濃度で供給する。カゼインは摂取後7時間以上にわたりアミノ酸をある程度血中に供給する。

2、カゼインは摂取後1時間あたりから身体のタンパク質の分解を抑制する。

3、ホエイは摂取後2-3時間にわたり身体のタンパク質の合成を促進する。

ということです!!

よっしゃ!!んじゃホエイとカゼインを、このグラフに沿って時間のタイミングを合わせながら両方飲みまくってやれば血中のアミノ酸濃度上がりまりで筋肥大だ!!!!

となりましたか?

そうなってしまったあなたはサプリメントの広告に騙されやすい方だと思います。

 

よくこの解説記事の最初の方を読んでください。
この一連の実験では

1、被験者は10時間の睡眠後、朝ごはんを食べずにホエイプロテインまたはカゼインプロテインのみを摂取。

2、被験者はプロテイン摂取後7時間に渡り食事をできない。

という条件下で血中アミノ酸濃度を測っています。
つまり17時間のもの長い間、身体に30 gのプロテインしか与えられていない絶食状態です。
我々が通常プロテインを摂取する際は、何かしらの炭水化物(糖分)も一緒に摂取しますし、17時間に渡って絶食をすることもほとんどありません。必ず食事を挟んだり、再びプロテインを飲んだりするはずです。
そのような違った条件下では”必ず”実験結果は違ってきます。
食事を伴って同じような実験をしたらグラフの形は大きく変化することでしょう。
よって、こういう記事や論文を読んだ際は

「へぇーなるほどねー。確かにホエイの効果は早くて強烈で、カゼインはゆっくり長く効くんだね。ホエイのタンパク質合成を促進する効果は本当っぽいけど、カゼインが促進効果がないっていうのは糖質も組み合わせたらどうなるのかな?それにホエイはタンパク質分解を抑制しないけどそれも食事次第で変わるかも。それに長期的にみたときに結局筋肥大にいいのはどっちなのかな?」

と、与えられた情報をそのまま受け取るだけでなく、常に情報を十分に咀嚼しながら、考えながら捉えるのが正解であり

「うおーーまじか!!じゃあホエイとカゼインを一緒に飲んだら常に血中アミノ酸濃度高いし、タンパク質合成も促進されて最高や!!タイミングもこの論文に合わせて飲むわ!!!科学最高!!!」

と、短絡的に考えてしまうのは間違いなのです。

では最後にもう一度まとめてみましょう。

1、ホエイは摂取後2-3時間にわたりアミノ酸を血中に高い濃度で供給する。カゼインは摂取後7時間以上にわたりアミノ酸をある程度血中に供給する。

2、カゼインは摂取後1時間あたりから身体のタンパク質の分解を抑制する。

3、ホエイは摂取後2-3時間にわたり身体のタンパク質の合成を促進する。

4、1−3の結論はプロテイン摂取前10時間、摂取後7時間にわたり絶食をした条件下で得られたデータであり、食事次第で結果やタイミングは変わりうる。 ← NEW!!!

 

今日はホエイとカゼインの特徴について一本の論文を参考に、深く考察してみました。
そして最後に、実験で得られた科学的結果をどう咀嚼すればいいかについて書きました。
世の中のニュースサイトやブログ記事に書かれている内容には、このように論文の結果を間違って解釈したり、内容を誇張したりすることでアクセスを集めようとしたり、商品を売ろうとしたりするようなものが非常に多いです。
一つ一つを検証するのは難しいですが、ぜひ、そのような内容の記事を見た際は少なくとも ”疑いの目” をもって、よく考えながら読んでみてください。
ちょっと後半は伝え方が上から目線になって申し訳ありません!!!
こういう感じにした方がインパクトが強くなるかなと思ったので、、、
ホエイとカゼインの特徴の違い、理解していただけたでしょうか?

次回はプロテインのアミノ酸スコア(アミノ酸組成)について解説してみようと思います。

 

 

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4 件のコメント

  • わかりやすく丁寧な解説をありがとうございます! とても勉強になります。

    最近山本義徳さんの「タンパク質とアミノ酸 前編」を読んだのですが、ご引用されている”Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion”では「ロイシンの量をホエイとカゼインで揃えるため、ホエイは30gなのに対し、カゼインは43gを摂取していた」とあります。
    そして下記論文”Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men”では「3時間後の血中必須アミノ酸レベルはホエイとカゼインも同等となっています。またこの研究では筋タンパク合成率においてホエイはカゼインよりも93%高かった」と引用されています。
    https://www.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00076.2009

    私自身は論文の方は読んでいないのですが、、ご参考になりましたら幸いです。

    • >ロイシンの量をホエイとカゼインで揃えるため、ホエイは30gなのに対し、カゼインは43gを摂取していた。
      ありがとうございます!読み落としていました。修正しました!

      >3時間後の血中必須アミノ酸レベルはホエイとカゼインも同等となっています。またこの研究では筋タンパク合成率においてホエイはカゼインよりも93%高かった。
      3時間後のの血中必須アミノ酸レベルはホエイとカゼインも同等ですが、90分まではホエイのほうが高い値を保っています。
      確かにこの研究では筋タンパク合成率は運動していないグループでは93%、運動後では122%ホエイのほうがカゼインより高い値になっています。
      ホエイもカゼインも両方21 g程度摂取していての結果です。

      研究者たちは違う条件、違う測定方法でホエイ・カゼインの比較などをしています。
      実際にホエイとカゼインのどっちがいいかを判断するには色々な条件下でなされた研究を総合して考えなければいけませんね。
      コメントありがとうございました!